第4回 卒業論文レジュメ(2002/7/1)
「住宅改修をめぐるトラブル」 国際学部国際社会学科4年 佐藤美佐子
高齢者の生活を支えるための住環境整備についてやっていこうと考えているが、今の段階ではまだ「住宅改修」、特に介護保険制度の住宅改修について調べるにとどまっている。住環境整備については他にも調べたいことはあるが、まず住宅改修についてきちんと整理をしておこうと思い、今回も住宅改修について調べた。
住宅改修に関する問題として、国民生活センター(http://www.kokusen.go.jp/)が5月29日に「介護が必要な高齢者のための住宅改修―消費者相談からみた問題点と課題―」
(http://www.kokusen.go.jp/cgi-bin/byteserver.pl/pdf/n-20020529.pdf)という資料を発表している。今回はそれを読み、実際に何が問題となっているのかを知ることにより、どういう点で改善が必要なのかを考えるための参考にしたいと思う。
以下は、その報告のポイント(引用)である。
《報告のポイント》
1 2001 年度の相談件数は、前年度の2倍を超える
2000 年度62 件、2001
年度は136
件に増加。計198
件。
2 住宅改修の種類別では、「段差の解消」のトラブルが多い
住宅改修の種類別では、「段差の解消」工事をめぐるトラブルが多い(36.9%)。次いで、「手すりの取り付け」(21.2%)、「便器の取り替え」(18.9%)が続く。
3 販売方法と解約をめぐる相談が多い
相談事項別では、販売方法(41.9%)と解約(40.1%)をめぐるトラブルが多い。その他、取引条件、工事内容、工事費用、事故・破損等の相談がみられる。
4 相談内容の特徴
(1) 介護保険の範疇のトラブル
@ 居宅介護支援事業者が住宅改修事業者を兼ねる(関連する)場合の相談が目立つ。
A 施工業者の改修経験・知識不足により、役に立たない雑な工事がなされている。
B 改修目的・工事内容・費用(20 万円内外)の説明不十分。アセスメントなし。
(2) 介護保険利用などを勧誘の手口に使ったトラブル
@ 介護保険利用可能と勧誘され、内金を支払った後、利用できないと分かる。
A 説明不足、契約内容があいまい。解約を申し出たら高額の違約金を請求。
B 「介護保険利用・市町村の助成制度利用」をうたい高額の契約をさせられた。
5 住宅改修制度の見直しと消費者行政・福祉行政・建築行政の連携を強化
(1) 安心して事業者を選ぶためには複数の専門家をつなぐ仕組み作りが必要
(2) 介護支援専門員(ケアマネジャー)は、住宅改修の面も支援してほしい
(3) 事後申請から事前申請へ―改修費の9 割は事業者が市町村から受領する方法へ
(4) 消費者行政・福祉行政・建築行政の連携強化を
(5) 住宅改修の情報提供と悪質な販売への注意喚起が必要
また、報告書では、介護保険の制度上の問題点として、
(1)介護にかかわる住宅改修経験や知識のない事業者でも参入できる仕組み
(2)消費者は全額事業者に支払い、工事後、市町村に申請する仕組み
を挙げている。
(1)については、次のようなことが書いてあった。(抜粋)
“介護保険給付の対象となる介護サービスは、都道府県知事から指定された事業者により提供されることとなっている。ところが、介護保険における住宅改修は、事業者の指定制度がなく、施工業者については特に定めがないために、介護にかかわる住宅改修の経験や知識の少ない事業者が参入できる仕組みになっている。その弊害は、相談事例にみたとおりである。だが、住宅改修については、現段階で、指定事業者制度を取り入れても、種々の問題を解決することは容易ではない。仮に、基準を満たし指定された事業者が、不適切な工事や不当に高い工事をしたとき、福祉担当課が、工事内容や金額をチェックし指定取り消し(基準違反)の明確な証拠をつかむことは難しく、指定事業者による新たなトラブル発生のおそれがある。住宅改修については、当面は、指定事業者制度に替わるシステム構築が必要と思われる。”
・住宅改修についての知識・経験不足の事業者が参入しているということ自体、問題である。しかし、「現段階で、指定事業者制度を取り入れても、種々の問題を解決することは容易ではない。〜」ということであり、簡単に指定制度を作ればいいというわけでもないようである。しかし、だからといって野放しにしておくのでは、住宅改修に関わるトラブルをなくすことはできない。チェックが難しいからといって、行政が関知しないというのではいけないのではないだろうか。
(2)について(同じく抜粋)
“住宅改修費は制度上、償還払いとなっており、まず、消費者は全額事業者に支払う。工事後、市町村に「住宅改修費支給申請書」等を提出し、認められれば、住宅改修費(20
万円まで)の9 割は、市町村から消費者に支給されることになる。
相談事例をみると、ヘルパーや民生委員、別居の家族らが高齢者宅に行ったときに、住宅改修の契約をしたことに気付き、被害が表面化するケースが多い。
市町村に提出する「住宅改修が必要な理由書」に介護支援専門員が記入する時点、また、介護支援専門員が消費者の住宅改修契約に気付いた時点で、介護保険適用外の工事(種類、金額)には、介護保険は利用できないことを知る消費者も少なくない。
多くの場合、被害に気付くのは、事業者に全額を支払った後である。”
・工事費用を先に全額事業者に支払い、後から9割分を支給されるというのは、支払う側の負担を考えても、変えるべきではないか。介護保険の支給限度額20万円以下の工事であった場合でも、一時的にせよ大きな出費になるのである。年金のみで生活している人にとっては、生活に支障が出る。それによって、改修したくてもできない人もいるかもしれない。事前承認としている自治体も一部に存在しているということだが、それを広げる、もしくは完全に改めるということが必要ではないだろうか。
高齢化が進むなかで、在宅での介護や介護予防、高齢者の自立を図るということの比重が増していくと思う(介護負担、費用負担などを軽減していくためにも)。しかし、住宅改修に関しては、必要性が認められてきているというのに、それに関わる事業者、介護支援専門員等、そして行政の認識、知識、技術、経験が不足している。そのために、さまざまなトラブルが起こっているのである。今後、認識を新たにし、知識や技術を身に付け、経験を積んでいくということになるのだろうが、トラブルが起こってから悔い改めるというのでは、目標に到達するのはまだまだ先のことのようにも感じる。制度が始まってみて分かるということもあるだろうが、制度が施行されればすべてが良くなるというわけではないのだから、制度前からきちんとした準備をしておく必要があったのではないだろうか。そうは言っても、いまさらそれをいっても仕方がないので、この現状を改善していくために、行政や事業者等が努力し、行動していくことが求められるのだと思う。介護保険制度に関しては、他にも改善すべき点があるようだが、高齢社会を支える制度として十分なものになるような改善をしていくべきである。
現時点で、行政が住宅改修に関わるトラブルを把握しているのか、把握しているのだとしたらどう受け止め、どう対処していこうとしているのか、ということが分からないので、それも知りたいと思った。
*国民生活センター
目的:国民生活の安定及び向上に寄与するため、総合的見地から、 国民生活に関する情報の提供及び調査研究を行うこと。
根拠法:国民生活センター法(昭和45年)
業務:消費生活相談 生活情報の提供 生活研究・調査 商品テストなど
*介護支援専門員(ケアマネジャー):
介護保険のサービスを利用する方などからの相談に応じ、利用者の希望や心身の状態等を考慮して、適切な在宅または施設のサービスが利用できるように市町村、在宅サービス事業者、介護保険施設等との連絡調整を行う。
サービスを利用する方が自立した日常生活を営むために必要な援助に関する専門的な知識・技術をもった人たち。具体的には、医師、歯科医師、薬剤師、保健師、看護師、理学療法士、(PT)、作業療法士(OT)、社会福祉士、介護福祉士等をはじめとする保健・医療・福祉サービスの従事者のうち、一定の実務経験があり、試験に合格した後、実務研修を修了した人。
(厚生労働省資料より)